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東京高等裁判所 平成4年(ネ)1318号 判決 1992年12月28日

主文

一  一審被告らの控訴に基づき、原判決主文第一項及び第二項中の一審原告森下安道の金員請求にかかる部分を次のとおり変更する。

1  一審被告らは、一審原告森下安道に対し、各自、金四〇万円及びこれに対する平成元年一二月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審原告森下安道のその余の請求を棄却する。

二  一審原告森下安道の本件控訴を棄却する。

三  一審原告らの当審における請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その一を一審被告らの負担とし、その余を一審原告らの負担とする。

理由

一  当事者の求めた裁判

1  平成四年(ネ)第一三一七号

(一)  控訴の趣旨

(1) 原判決中、一審原告森下安道(以下「一審原告森下」という。)の請求を認容した部分を取り消す。

(2) 一審原告森下の請求を棄却する。

(二)  控訴の趣旨に対する答弁

(1) 本件控訴を棄却する。

2  平成四年(ネ)第一三一八号

(一)  控訴の趣旨

(1) 原判決主文第一項及び第二項中の一審原告森下の金員請求にかかる部分を次のとおり変更する。

(2) 一審被告らは、一審原告森下に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年一二月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  当審における請求の趣旨

(1) (主位的請求)

一審被告らは、一審原告らに対し、別紙一記載の謝罪広告を、見出し・記名・宛名は各一四ポイント活字をもつて、本文は八ポイント活字をもつて、株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞、株式会社読売新聞社(東京本社)発行の読売新聞及び株式会社日本経済新聞社(東京本社)発行の日本経済新聞の各朝刊全国版社会面に三日間継続して掲載せよ。(請求の変更)

(2) (第一次予備的請求)

一審被告らは、一審原告らに対し、別紙二記載の謝罪広告を、見出し・記名・宛名は各一四ポイント活字をもつて、本文は八ポイント活字をもつて、株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞、株式会社読売新聞社(東京本社)発行の読売新聞及び株式会社日本経済新聞社(東京本社)発行の日本経済新聞の各朝刊全国版社会面に各一回掲載せよ。(請求の追加)

(3) (第二次予備的請求)

一審被告らは、一審原告らに対し、別紙二記載の謝罪広告を、見出し・記名・宛名は各一四ポイント活字をもつて、本文は八ポイント活字をもつて、一審被告株式会社講談社が次回発行する写真週刊誌「フライデー」の紙面に三回継続して掲載せよ。(請求の追加)

(4) 仮執行宣言

(三)  控訴の趣旨、請求の趣旨に対する答弁

(1) 本件控訴を棄却する。

(2) 一審原告らの当審における請求をいずれも棄却する。

二  事案の概要

本件は、一審原告森下及びその経営する同株式会社アイチ(以下「一審原告アイチ」という。)が、一審被告株式会社講談社(以下「一審被告講談社」という。)発行の写真週刊誌「フライデー」(以下「フライデー」という。)が掲載した原判決別紙二記載の記事により名誉を毀損されるという不法行為があつたと主張して、右講談社とフライデーの編集長である一審被告森岩弘(以下「一審被告森岩」という。)に対し、一審原告森下が慰藉料一〇〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを、同人と一審原告アイチが、謝罪広告の掲載を請求したところ、原審は、一審原告森下の慰藉料請求を一部認容し、その余の請求を棄却する判決を言渡したので、当事者双方から控訴がなされた事案である。なお、一審原告らは、当審において、謝罪広告の掲載請求について、広告内容を変更するとともに予備的請求を付加した。

その他は、原判決の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり、付加訂正する。

1  原判決三枚目表二行目の「七月」を「三月」に改める。

2  同三枚目裏四行目の「以下」の次に「別紙二記載の部分のみを指して」を加える。

三  争点に対する判断

1  本件記事は、一審原告らの名誉を毀損するか(争点1)。

(一)  本件記事は、一審被告らが、本件記事の中で、コスモポリタングループ(以下「コスモグループ」という。)倒産事件、月光荘倒産事件、キャングループ倒産事件等の社会経済事件を取り上げ、一審原告らのこれらの事件に対する関与状況について具体的に記述すると同時に、ある程度抽象的にまとめた事実も併せて記述しながら、一審原告らの営業のやり方を批判したものであるが、一審原告らについて、次のような記述もしている。

(1) 一審原告森下を「闇金融の帝王」と呼称している。

(2) 一審原告アイチを「マムシのアイチ」と呼称し、その営業を「マムシ商法」と表現する。

(3) 「『オケラ』になつた者たちが駆け込むのが、たとえば今回取り上げるアイチのような金融業者である。敗者には冷酷なメスがふるわれ解体される。」「『狙つた獲物(企業)を必ず殺して(倒産させて)資産を自分のものにしてしまう』ところからつけられた仇名が『マムシのアイチ』」「アイチに融資を頼むのだが、若干の『輸血』では回復は望むべくもない。結局『死に体』企業をさばくメスはアイチが握ることになる。」

(二)  右記述を含む本件記事全体が一審原告らの名誉を毀損するものであるかを検討する。

右(1)ないし(3)の記述は、一審原告らの前記社会経済事件に関連する営業活動についての記述などと一体となつて、一審原告らの営業のやり方を批判するものであるから、個々の表現だけではなく、本件記事を全体として見て、それが、一審原告らの名誉を毀損するものであるかを見るべきである。

その意味で、本件記事は、右批判に全く無関係なものを除き、その全体が名誉毀損の成否を検討すべき対象として考えるべきものである。そして、本件記事のうち右の意味で全く無関係な部分があるのかという点について検討するに、そのような部分はないと考えられる。例えば、株式市場が巨大な「カジノ」であるという叙述にしても、それは、本件記事全体の中では、一審原告「アイチのような金融業者」の登場する背景として必要な事情の説明として位置付けられるし、ほとんど無関係のように見える一審原告森下の生い立ちにしても、金融業界における「成功をもたら」し、「抜け目なく自己中心的」になる遠因としての意味を有するものである(もとより、株式市場や生い立ちに関する叙述が、それ自体として、特に名誉毀損となる表現であるわけではない。)。

「闇金融」とは、貸金業の規制等に関する法律に基づく登録を受けない非合法な金融業者の行う違法な金融を意味するか、或いは、金融取引の一般倫理ないし道徳に反する行動等を意味する言葉であり、一審原告森下をこのように評価する記述をすることが、同人の社会的評価を低下させることは明らかといえる。

「マムシ」は、有毒な蛇を意味するが、比喩的な表現として用いる場合は、獲物を狙う貪欲さ、食い付いたら離さない執拗さ又は冷酷さなどの恐ろしく他人から忌み嫌われるものの印象を聞く者に与える言葉であり、一審原告アイチ又はその営業活動の社会的評価を低下させる働きをすることは明らかである。

右(1)ないし(3)の記述は、その表現において、それ自体、本件記事中において一審原告らの社会的評価を低下させる度合の最も著しい部分であるが、同時にそれらは、本件記事中の右各社会経済事件の具体的性格づけを説明する役割をになつている。これとコスモグループ倒産事件の記述についていえば、それは、一審原告アイチは、専ら自己の利益を図るため、コスモグループの仕手戦を支え、このグループを結局倒産させ、その重要な資産を自分のものとして取得してしまう、悪どい金融業者である旨を記述しているのと同様の効果を与えるものとなつている。月光荘倒産事件についていえば、一審原告アイチは、他の金融機関からは融資を断られ、倒産必至の月光荘に融資して、それを契機に月光荘の有力な無形の資産を自分のものとしたとの記述をしたのと同様な効果を与えるものとなつている。キャングループ倒産事件の記述についていえば、一審原告アイチは、倒産企業に対する債権額全体の中で占める割合からいえば少額の債権しか有していないのに、倒産必至になつてから融資を頼まれた金融業者の強味を最大限に利用して不当な行為をしたとの記述と同様な効果を与えるものとなつている。

そして、右(1)ないし(3)の記述は、前記の各社会経済事件についての具体的事実を基礎にした、それに基づく論評的性格をも有するが、同時に、それ自体、特段の根拠を示さないまま、独立した、本件記事の作成者による断定的評価を使つた抽象的事実の性格をも有していると考えられる。もとより「つけられた仇名」とか「もう一つの異名」とかいう表現が使用されていても、それは、本件記事の作成者がこうした呼称に必ずしも同調するものではない旨を表す表現ということができず、むしろ、本件記事全体を通観するときは、右作成者は、こうした呼称に積極的に賛成で、自らもそう呼称しているものと認められる。

以上判示のとおりであるから、本件記事は、全体として、一審原告アイチが、倒産に瀕した企業に融資した上、企業を倒産に追い込み、その際、執拗なまでに貪欲に資金の回収など自己の利益を追求し、企業を食い物にする営業活動をし、そのやり方は自己本位で非情、冷酷で、悪どいものであることを事実や論評的記述を取り混ぜて表現したものということができ、しかも、その表現もセンセーショナルであり、本件記事は、全体として、一審原告らの社会的評価を低下させるものであるといわなければならない。

(三)  一審被告らは、本件記事中の「闇金融の帝王」や「マムシのアイチ」という呼称、「マムシ商法」「狙つた獲物(企業)を必らず殺して(倒産させて)資産を自分のものにしてしまう。」「敗者に冷酷なメスをふるい解体する。」などの一審原告らの営業に関する記述は、昭和六〇年九月ころまでに、既に、他の新聞、週刊誌等の記事中で同趣旨の表現が繰り返し使用され、一審原告らの営業に対する呼称ないし表現としては社会的に承認されて定着していたものであり、一審被告らは、これを引用したに過ぎないから、本件記事により一審原告らの社会的評価の低下を生じたとはいえないと主張する。

確かに、昭和六〇年九月ころから昭和六一年八月ころまでの間に、多数の全国的な新聞紙上又は週刊誌上に、一審原告森下について「裏金融のドン」「闇金融の帝王」「地下経済の金融王」など、一審原告アイチについて「マムシのアイチ」「おにのアイチ」「企業の葬儀屋」などの呼称を付したうえ、一審原告アイチの営業について「ハイエナ商法」「倒産寸前の企業に融資をエサに近づいては骨の髄までしやぶり尽くす。」など本件記事と同一ないし同趣旨の呼称や表現を使つた記事が掲載されたこと、本件記事は、一審原告らの呼称について「…ところからつけられた仇名が『マムシのアイチ』」、「…奉られたもう一つの異名は『闇金融の帝王』」、などと他を引用する表現を取つていることが認められる。

ところで、一審原告森下は、昭和六〇年九月、株式会社アイデンの倒産に絡み、第三者割当増資の不正工作に関与したとして、公正証書原本不実記載、同行使の罪で東京地方検察庁特捜部に逮捕され、その後起訴され、昭和六一年一〇月に東京地方裁判所で懲役一年執行猶予二年の判決を受けており、右各記事のほとんどが右森下の逮捕を報じ、これに関連して、一審原告の営業活動に関して記述したものであり、一審原告森下が犯罪を犯して逮捕起訴されたところから、報道機関が、「刺激的かつ辛辣な表現」により同人及び一審原告アイチの従来の営業活動を批判する記事を掲載したとも見られる側面を有することは否定し難いが、前記刑事事件に、右新聞等の報道を通じて、一審原告らの営業のやり方について、右各記事に記述するようなイメージが一般の社会人の中に浸透したことは否定し難いところであり、右各記事以前にも一審原告らについて同様な呼称を報じた記事もあり、右各記事後も、例えば、一審原告森下を「裏金融のドン」と称した昭和六二年八月三日付の新聞記事や一審原告らを「闇金融の帝王」「マムシのあいち」と呼称した平成二年八月号の雑誌記事があることを考え合わせると、本件記事が記述した一審原告らの呼称や一審原告らの営業に関する印象は、本件記事が掲載発行されたころには、社会的に広く定着していたとまでいえるかはともかく、一般人に相当広く知られるに至つていたものと認めることはできる。しかし、仮に右の事実が認められるとしても、本件記事は、金融界の実情に詳しく、既に一審原告らについて、ある程度の既成観念を持つているかもしれないある範囲の経済人に対してはともかく、少なくとも、一般の社会人に対しては、一審原告らに対する低下した評価を改めて喚起し一層強固なものとすることにより社会的評価をより低下させる働きをするものであり、前記先行する記事からも二年位経過しており、一審原告森下は、昭和六一年九月ころ、一審原告アイチの代表取締役の地位を退任したことも考慮すると、一審原告らの社会的評価を今更低下させることはないなどとはいえない。

2  本件記事は、公共の利害に関する事項について、公益を図る目的の下に掲載され、その内容が真実であるか、少なくとも一審被告らにおいて真実であると信じるについて相当の理由があると認められるか(争点2)。

(一)  公共の利害に関する事項及び公益を図る目的について

本件記事は、フライデー誌上に平成元年七月二一日号から同年一〇月一三日号まで一一回にわたり掲載された「金満ニッポンに蠢く『怪人物』列伝」と題する連載記事の第一一回目(最終回)に当たるが、右連載記事を企画した同誌編集部の意図は、当時は、巨額の投機資金が、不動産、株式、ゴルフ場会員権、絵画等の市場に投じられたり、移動したりしたいわゆるバブル経済の最盛期に当たつたところ、右資金を動かす人物に焦点を合わせて、右経済の実態を捉え、批判的に分析、論評しようというものであり、対象として一審原告らの外右資金を操作するとされていた一〇名の人物(麻布自動車社長渡辺喜太郎、光進グループ代表小谷洸裕、イ・アイ・イ・グループ代表高橋治則、第一不動産会長佐藤行雄、秀和社長小林茂等)を選定して取り上げたこと、一審原告森下を選定したのは、同人は、金融業者である一審原告アイチのオーナーとして、前記市場に資金を融資することにより右のような経済活動を支える役割を果たすとともに融資先が倒産した場合の処理に当たると見られていたためであること、一審原告アイチは、商業手形の割引、手形貸付、不動産担保貸付、有価証券貸付等を業とし、平成元年二月期の融資残高約二二〇〇億円、取扱高一兆四一七二億円という、各地に支店を持つ大手の金融業者であり、昭和六一年ころから平成元年までの間に飛躍的に業績を伸ばしていたこと、一審原告アイチは、倒産したアイデンの増資に関係して昭和六〇年に一審原告森下が逮捕されたり、後記のとおり、いわゆる仕手筋や大規模な倒産事件として報道され世間の耳目を集めた会社や個人と取引のあつたことから、その営業のあり方が社会の関心を持たれていたこと、一審原告森下は、一審原告アイチの筆頭株主(二九・二八パーセントの株式を所有)であり、実質的なオーナーであることが認められる。

右事実によれば、本件記事は、一審原告ら及びその営業活動を対象としたものであり、一審原告らの金融業者としての地位、役割、営業活動の状況、本件記事の編集意図、内容等に照らすと、公共の利害に関する事項について、公益を図る目的で掲載されたことが認められる。

(二)  一審被告らが摘示した事実の真実の証明について

(1) 本件記事は、一審原告森下ないし同アイチの営業活動に関する具体的又は抽象的事実などを記述して、一審原告アイチの営業のやり方を批判する形式で一審原告らの社会的評価を低下させる記述をしているものであり、本件記事中の前記1の(一)の(1)ないし(3)の記述と他の部分の関係の捉え方については、前記1の(一)、(二)に判示したとおりである。本件記事においては、一審原告らが関与した具体的な経済事件として、コスモグループ関係、月光荘関係、キャングループ関係が取り上げられており、これらのグループ等との取引が、右評価の基礎事実にもなつているので、右事実が摘示された事実として、重要な部分について真実の証明の対象となることはいうまでもない。また、前記1の(一)の(1)ないし(3)の記述は、一審原告らの営業のやり方に対する批判として評価としての側面を持つているけれども、一審原告らの営業活動を比喩的かつ抽象的一般的な表現で記述した事実としての側面も持つので、右事実としての側面については、真実の証明の対象になると解される。

(2) コスモグループ関係について見ると、本件記事は、同グループは、株式会社タクマ(以下「タクマ」という。)、雅叙園観光株式会社(以下「雅叙園観光」という。)などの株式買占めで知られたこと、コスモの仕手戦を支えたのが一審原告アイチであること、同原告は、丸石自転車株式会社(以下「丸石自転車」という。)、徳陽相互銀行、宮崎銀行、オーミケンシ株式会社(以下「オーミケンシ」という。)などコスモグループの集めた株式を譲り受けていたために実害がなかつたことなどを記述している。コスモグループは、投資グループで雅叙園観光、丸石自転車、タクマ等の株式を買い占めたとされるが、その後、資金繰りが悪化し、昭和六三年一一月に大阪地方裁判所で破産宣告を受けたこと、一審原告アイチは、昭和六一年ころまで、右コスモグループに対し、最高約三〇〇億円を融資していたこと、一審原告は、コスモグループが買い受け取得した株式を担保に融資し、同グループが右融資金をもつてさらに株式(仕手株)を取得することを認識していたこと、一審原告アイチは、コスモグループが株式の買い占めを行つていたとされる丸石自転車、タクマ、オーミケンシ、雅叙園観光の株式を多数取得したこと、右株式の中には、融資の担保として一審原告がコスモグループから預かり、代物弁済により取得したものもあることが認められる。

右事実によると、一審原告アイチの融資した金員は多額であつて、その相当部分が仕手戦に使用されたことが推認されるので、「支えてきた」との表現の解釈の仕方にもよるが、報道機関として、右の状態を「支えてきた」と表現することも許されると考えられる。したがつて、前記記述については、少なくとも、その重要な部分について、真実の証明があつたということができる。

(3) 次に、月光荘関係について見ると、本件記事は、「倒産した画廊月光荘の大口債権者の中にもアイチはいた」「昭和六二年末に経営危機が表面化してから、(月光荘の経営者の)最後の頼みの綱は常にアイチだつた」「アイチの狙いは老舗画廊『月光荘』の看板を、自社の絵画売買に生かすことだつたそうだが、月光荘の販売ルートやそのノウハウを押さえたせいか、アイチの絵画販売は好調で、ときには、融資を頼みにきた企業に絵画を売りつけたりもする」などと記述する。月光荘は、銀座の老舗の画廊であるが、平成元年三月に約一八八億円の負債を抱えて倒産したこと、一審原告アイチは、月光荘に平成元年八月ころの時点で、約八億六〇〇〇万円ないし九億六〇〇〇万円の融資をしていたこと、一審原告アイチは、従前、月光荘との絵画取引があつたこと、昭和六三年一一月ころ、一審原告アイチの関連会社の株式会社アスカインターナショナルは、絵画の販売を主要な業務とするようになつたこと、一審原告が、融資先に絵画を売つたことは認められる。しかし、右事実によれば、本件記事中、一審原告アイチが、月光荘に融資したことや融資先に絵画を売つたことは認められるけれども、その他の部分については、これを真実であるとの証明があつたと認めることはできない。

(4) さらに、キャングループ関係について見ると、本件記事は、アイチは、負債総額一〇〇〇億円のうち約一〇億円の債権者に過ぎないのに、倒産したキャングループの債権整理委員会の中心メンバーでもあること、キャングループの韓義孝会長が最後に頼つたのが一審原告森下だつたために、アイチが右委員会議を牛耳ることができたことなどを記述する。キャングループは、韓義孝の主宰する仕手集団であり、平成元年八月ころ、資金繰りに行き詰まり倒産したこと、一審原告アイチは、同グループに対し約三億円の融資をしていたこと、日本トラスト株式会社は、北海道でキャングループが建設中であつたゴルフ場を買い取つて営業しているが、同一審原告は右買取り資金を融資し、右ゴルフ場に抵当権を設定したことは認められる。右事実によるも、本件記事中の右記述が真実であることの証明があつたとは認めることができない。

(5) 本件記事中の各記述について前記1の(一)、(二)に判示したような相互関係に照らして考えれば、前記(3)、(4)において真実であることが証明されているとはいえないと判示した部分の真実は、前記1の(一)の(1)ないし(3)の記述と相まつて、一審原告らの社会的評価を低下させるために重要な意味を持つ事実であるといわなければならず、この点を無視し、それらが真実であるとはいえないということは、本件の違法性に関係がないとすることは許されない。

また、前記1の(一)の(1)ないし(3)の記述の事実的側面についても、これが、一審原告らの社会的評価を低下させるために重要な意味を持つものであることはいうまでもないところがあるが、これを直接具体的に証明する証拠も提出されていない。乙三〇号証、証人伊藤博敏の証言も、右事件等についての一審原告らの営業活動を概括的に述べるか、自己のした評価を述べるにとどまるもので、本件記事に記述された事実を証するに足りるものとはいい難い。なお、本件記事の編集を担当した証人谷雅志は、前記事件のほか、一審原告アイチの関連した取引として、サンポール事件、常総プラニングや森学園に対する融資の経過、右アイチがその関連会社の経営するゴルフ場(上越国際カントリークラブ、川越グリーンクロス)を取得した経過、富洋恒産所有の不動産を取得した経緯等を述べるが、右事実自体、供述のみで、その取得の経緯等を裏付ける証拠はなく、真実性の証明があるとはいえない。

(6) 本件記事は、以上に判示したような意味で、これを裏付ける事実が一部を除き真実であることの証明がない以上、正当なものであるとはいえず、一審被告らの行為は違法性を阻却しない。

(三)  真実と信じたことについての相当の理由について

一審被告らは、本件記事の掲載に当たり、本件記事中の記述を真実と信じていたことが認められるから、先に、少なくとも重要な事実について真実の証明があると判示した、本件記事中のコスモグループ倒産事件関係の記述部分を除く他の部分について、それを真実と信じたことについて相当の理由があるか否かを検討する。

本件記事の編集、記事中の記述の取材源、取材方法については、次の事実が認められる。本件記事の作成は、フライデーの編集部員三名、外部の取材記者四名、カメラマン二名が担当したこと、編集部員や取材記者は、業界団体である東京都貸金業界の幹部、大手サラ金の元役員、金融情報誌の主幹、一審原告アイチのかつての融資先のゴルフ場の従業員など七、八名に面接して情報を得たこと、右金融情報誌の主幹からは月光荘、キャングループの各事件について具体的な情報を得たこと、一審被告らは、一審原告アイチがキャングループ関係で北海道のゴルフ場に設定した担保については、登記簿を調べて知つたこと、月光荘関係では、倒産に関する経緯について顧問弁護士の作成した文書を参照したこと、一審被告らは、一審原告らに対する三回の取材の申入れをいずれも拒否されたところから、一審原告森下本人、同アイチの幹部又は社員からは取材しなかつたこと、一審被告らへの情報提供者は、匿名を希望したため情報源は明らかにされていないことが認められる。

右事実によると、一審被告らの得た情報は、主として金融業界の事情に通じた者からの概括的な内容のものと見られ、一審原告らの融資の時期、金額、その用途或いは、倒産の経緯や一審原告らの倒産時の行動等について、少なくとも基本となる重要な部分については、月光荘等の当事者や関係者からの取材などにより具体的な裏付けを得るべきであると考えられるのにそうしていたとは認められず、客観的資料としては、登記簿謄本や新聞記事があるだけのようであり、これに、情報の提供者は匿名を希望していること、月光荘関係について、顧問弁護士の文書も証拠としては提出されておらずその内容は窺えないこと、一審被告講談社は、フライデー誌の昭和六一年一一月七日号掲載の一審原告アイチに関する記事の中で、同社について「ヤミ金融」「マムシ」の表現を用いて一審原告アイチから抗議を受け、右記事の内容について、その記事の根拠は一部の新聞などの報道を参考にしたものであるとしたうえ、謝罪の趣旨を含む釈明の書面(同年一一月六日付)を一審原告アイチに差し入れ、同様の事態の再発防止に配慮する旨を申し入れていること(これをもつて、単なる儀礼的意味しかないということはできない。)、本件記事はその性質上緊急性を要するものではなく取材により事実を確認する時間的余裕は十分にあつたことを考え合わせると、一審被告らが、一審原告らから取材を拒まれたことを考慮に入れても、本件記事において記述され、前示のように重要とされた事実について、客観的にみて確実性の高い資料等に基づき、真実性の吟味検討を慎重に行つたものとはいい難く、真実と信じるにつき相当な理由があるものということはできない。

3  公正な論評の法理による免責について(争点3)

一審被告らは、本件記事中の前記1の(一)の(1)ないし(3)の一審原告らに関する記述は、社会的に批判されるべき経済事案に必ずといつてよい程関与し、重要な働きをする一審原告らの営業活動に加えた論評であり、このような活動を国民に知らせて批判の対象にすることは、報道の使命というべきであるから、一審被告らは論評の自由を有し、本件記事は公正な論評に当たり、不法行為を構成しないと主張する。そして、論評の前提をなす事実が、その主要な部分において、真実であるか、少なくとも真実であると信ずるにつき相当の理由があること、その目的が公的活動と無関係な単なる人身攻撃にあるのではなく、それが公益に関係づけられていること、論評の対象が公共の利害に関するか、又は一般公衆の関心事であることの用件を充たす場合には、論評により人の名誉を毀損しても、責任を問われないと解され、本件記事は、右要件を充足すると主張する。

公正な論評の法理による免責の要件については、見解の分かれるところであるが、論評等の基礎となつた事実のうち、少なくとも重要な事実について真実の証明があるか、真実であると信じるにつき相当の理由があることを要すると解される。本件記事中の一審原告らに関する記述中に、論評と評価するべき部分があるとしても、前示のように、論評の基礎となつた事実のうち重要な事実については、真実の証明がなく、真実と信じるにつき相当理由があるとも認められないから、本件記事が公正な論評に当たり、一審被告らが免責されるとはいい難い。

4  したがつて、一審被告らが、本件記事をフライデー誌に掲載したことは、一審原告らに対する不法行為を構成するということができる。

5  謝罪広告を求める請求について(争点4)

一審原告らは、本件記事により被つた名誉毀損による損害を回復するために、一審被告らに謝罪広告をするように命じるべきであると主張する。

前示のように、昭和六〇年九月ころから昭和六一年八月ころまでの間に、全国的な新聞紙上又は週刊誌上に、一審原告らについて、本件記事と同一又は類似の呼称、その営業活動について同趣旨の表現をした記事が多数掲載され、本件記事が掲載発行されたころには、右呼称等は、一般人に相当知られていたこと、前示のように、アイデン事件に関連して一審原告アイチの当時の社長である一審原告森下が起訴され、有罪判決を受けたこともあつて、一審原告らに対する社会的評価は、高かつたとはいえないこと、一審原告森下は、本件記事掲載後に発行された月刊「Asahi」の平成二年八月号の誌上で、取材記者の「『マムシのアイチ』と言われることに抵抗はありませんか?」との質問に対し、「いや、感じませんよ。…カラスが天井で鳴いているぐらいだね。…そんなものにいちいち目くじらをたてたつてしようがない」趣旨の応答をしていること(乙一三号証、一審原告森下は、月刊「Asahi」の取材に応じたことを拒否するけれども、右記事の内容、一審原告森下の会長室における写真が添付されていること及び弁論の全趣旨に照らすと、一審原告森下の右供述は信用し難い。)、一審原告らは、前示のように一審被告らの三回にわたる取材申入れをいずれも拒否したことを総合すると、本件記事により一審原告らの被つた損害を回復するために、一審被告らに謝罪広告をするように命じるまでの必要はないというべきである。したがつて、一審原告らの謝罪広告を求める請求はいずれも理由がない。

6  損害について(争点5)

一審原告らやその営業のやり方について、前示のように、本件記事に掲載された呼称等が既に一般人に相当知られていたこと、前示のとおりコスモグループ倒産事件について重要な事実につき真実の証明のあつたこと、その他本件に顕れた一切の事情を併せて考慮すると、一審原告森下が本件記事の掲載により被つた精神的苦痛等に対する慰謝料としては四〇万円が相当である。

四  結論

以上のとおり、本訴請求中、一審原告森下の金員請求は、右の限度で理由があるから、これを認容し、その余を棄却するべきであるから、これと異なる原判決は一審被告らの控訴に基づき右の限度で変更し、一審原告森下の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、また、一審原告らの謝罪広告を求める当審における請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条、九二条を適用し、主文のとおり判決する。なお、原判決中、一審原告らの謝罪広告を求める請求を棄却した部分は、当審においてされた一審原告らの訴えの交換的変更(当審において主位的請求における謝罪広告の文言が、原審におけるものとは異なるものとされた。)により効力を失つた。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 宗方 武 裁判官 水谷正俊)

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